会社帰りに神楽坂に立ち寄った。
待ち合わせしていた相手の方が小一時間ばかり遅れるとのことだったので
しばらくぶりのこの土地の銭湯に行くことに。
最近疲れが溜っていたから足を湯船で伸ばして暖まりたかったのだ
入ってみたら思っていた通りの銭湯がそこにあった
テレビを見ている座った番頭さんを介して左右に分かれる男湯女湯。
木の札で鍵をかけるロッカー
20円入れて動くドライヤー
なにより富士山が描かれたタイル壁に心を踊らせた
さっそく貸しタオルと90円のシャンプーとリンス、石鹸のセットを購入
テレビに映ったフィギュラスケート代表高橋大輔選手ばりの
ステップを踏みながら風呂場に飛込んだ
(実際は踏んでません。軽やかではやる気持ちを表現したまでです)
丁度、湯船には誰もいなかった
早々と頭と体を洗い湯船に足を入れる
「あちぃ」
入れた爪先をひっこめる
これ、これよ。これが銭湯よ。
ここまでは全て想定内であった
しかし、ここからが戦いであった
何度も爪先を入れたり出したり・・・
湯が大変熱いのである
我慢できる程度ではない
「水で薄めるか・・・
いや、まてよ。江戸っ子はうめてはいけないのではないか?」
僕は川崎生まれで江戸っ子ではないが、ここは神楽坂
なんとなく江戸っ子感覚な町である
「
郷に入れば郷に従え」である
耐え難きを耐え、忍び難きを忍び・・・
体に鞭打つように足を入れては出すの繰り返し
戦いには勝たねばならぬ
しかしながら膝上まで入るのがやっと。
最後の牙城がなかなか崩せない
10分以上はそんなことを繰り返しただろうか
足の甲は真っ赤に腫れ上がり外に出してもヒリヒリする
しかし、上半身は浸かれず震えるほど寒い。
富士山の絵の前の銭湯で凍死???
わけが分からぬ文字が頭に浮かぶ
ざぶーーーん
突然状況が一変した
いかにも
江戸っ子といった威勢のよい男が一人入ってきた
背丈は低いが、幅広肩でガッシリとした体格、
池乃めだかさん風の四角いペヤング顔・・・
火事と喧嘩 その二文字が似合うかどうかはともかく
「祭りだ、祭りだ、わっしょいわっしょい」
僕の心の中が俄然騒がしくなった
「
あちいな」
言うやいなや、冷水の蛇口を一気に開け始めた
「・・・・・」
僕は唖然とした
さっきまでの心の中の世界がもろくも崩れ始めた
祭りの後である
「
兄ちゃん、熱いだろ、なあ こんなの入ってらんねえだろよ」
その場で見ていないと分からないことだが
一挙手一投足すべての行動において勢いは凄かった
話す言葉も早口で、見た目だけとれば間違いなく
思い描いた通りの江戸っ子であった
しかし口から出てくる内容は行動と反比例して弱弱しかった
その弱弱しさのおかげで、湯がかなり低い温度にうめられ
僕でも足を伸ばしてゆっくり入ることができたのだから
感謝はしなくてはいけない
相変わらずその男は早口でまくしたて色々と話しかけてきた
話しかけたというより一人漫談の如く僕の返事を待たずに話し続けていた
なまりが強く何を言ってるか分からなかったが、昔の銭湯はどうだった
なんてことを話していたように聞こえる
湯船からあがり出て行こうとしたとき
「
あんちゃん、出身はどこだ?」
「
川崎です」
「
なんだ、ここらじゃないのか。川崎か。。。」
寂しそうに出て行く男の背中越しに一声かけた
「
どちらなんですか?」
「
おれか?俺は、、、福島だ」
「
・・・・」
帰り際に寄った、今日の目的地、
神楽坂のおでん屋は大変繁盛していた
この中にどれだけ江戸っ子がいるのかな
そんなことを遅れて来た相手に聞こうと思ったけど、やめた
マスターがその日の朝に築地で仕入れた平貝が
めちゃめちゃ美味しかった
全国の美味い魚は地元の港からほとんど築地に集まると聞く
東京に集まるのは魚に限られた話じゃない
PS 今日のお店は美味しすぎて、教えることは出来ません
気になる方は、
神楽坂、おでんや、店は狭い・・・
これをヒントに探してみてください